@.2人きりでいま溢れる気持ち。
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二階校舎と向かい側の校舎を繋ぐ廊下は、橋みたいになっていて、周りを見渡すと青い空と遠くには川が流れる。
俺の右手には、あいつの左手。
--------がららっ
やみくもに歩いて、偶然見つけた部屋に入る。
「りょ、亮ちゃんっ、痛いって!」
「はっ狽、わり」
そう言われてぱっとくすけんの手を放す。
やべ、俺つい連れてきちまったけど、どうすればいいんだ!?
放課後、教室で大ちゃんとくすけんが楽しそうに話してるのを見てて、我慢できなくなってつい手を引っ張ってここまで来てしまった俺。
入った部屋には、書道室と書いてあった。
は、どこだここ.....
来たことのない場所に、俺は困惑していた。
「何か話、あった?」
少し遠慮がちに、首を傾げて聞いてくるくすけん。
「や、なんでも」
「じゃあ急にどしたの?」
「や、なんでも.....」
「へんなのー、大ちゃん待ってるから、戻らないとっ」
そう言いながら窓を開けてキョロキョロするくすけん。
きっと、大ちゃんを探してるんだろう。
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くすけん、お前さあ........
最近大ちゃんのことばっか、だよな。
この間だって、仲良さそうに肩組み合ったり、大ちゃんを膝の上に乗っけたり、してた。
俺は友達と話しながらも、いつもくすけんが何してるのか、気になって仕方なかった。
だから、そんなやな場面も見てしまうこともあって、何度も何度もやな思いをして。
そんなやな思いも、時たま走り寄って来ていつも大ちゃんに見せてる笑顔をちょっと振りまいてくだけで、一瞬でその思いが消え去ってしまって...たまに悔しくなる。
『なんで大ちゃんとばっか、しゃべってんだよ!』
とか
『俺のことも見ろよ!』
とか
言いたいけど、言えないことがたくさんある。
それはきっと、俺がへたれだから。
恋に臆病だから。
臆病すぎて、手を出すことができないんだ。
いままで黙ってたのは、くすけんが困ると思ったわけではなくて、ただ崩れてしまう関係を恐れていた、やっぱり臆病な自分がいたせいだ。
な、どうやったら、言わずに伝えられる?
俺の気持ち。
口で発して言うんじゃない、心で.....心で『俺はお前が好きなんだ』って、言いたい。
なんて、何言ってんだ、俺。
一瞬でもロマンチックなことを考えてしまった自分が急に恥ずかしくなった。
「あっ、大ちゃんだ!おーいっ」
気づくと、窓ごしに向かいの校舎が見えているらしく、教室の窓からこちらを見ている大ちゃんに、くすけんは笑顔で手を振っていた。
向かいにいる大ちゃんも、いつになく笑顔。
しばらくすると、くすけんは窓を閉めて、振り返って俺に笑いかけて、手を握ってきた。
「大ちゃん待ってるから、戻ろうよっ」
そのまま、握った手を引っ張って歩き出すくすけん。
違う、違う.....
大ちゃんが待ってるのは、俺じゃない。
あいつが待ってるのは、くすけん、お前だけ。
そう思った瞬間、俺はくすけんの手を思いっきり振り払っていた。
「りょ、亮ちゃん..…?」
明らかに動揺を隠せないくすけん。
「……俺じゃねぇんだよっ!」
声を張り上げて言うと、くすけんの目は大きく見開いて、瞬きを何度もさせていた。
ごめん、ほんとはこんなこと言いたくねぇよ。
でも…でも、抑えられない。
お前だけが行けばいいんだ、そしたら大ちゃんと一緒にいれる。
大ちゃんだってそう望んでるはずだ。
「なんで、なんで俺じゃねぇとか言うんだよっ」
少し唇を震わせて、怒ったように見えるけど、全然怖くない。
「な、くすけん、俺のこと考えたことあるか?」
「亮ちゃんの…こと?」
急な質問に目を見開いて硬直するくすけん。
....って、やっぱり、わかんねぇみたいだ。
なんだよ、俺だけが空ぶってたのかよ。
俺だけが必死になって追っかけて、
俺だけが距離を少しでも詰めようと頑張って、
俺だけがお前に好かれたいって願って、
……俺だけが、片想いだったんだな。
-----っ
気づけば、俺の目から何かがこぼれ落ちた。
頬に伝って、地面にぽたっと落ちる。
なんだ……これ。
俺は今自分の瞳からこぼれ落ちたものが、『涙』だなんて信じたくなかった。
ふと、視線をあげると、目の前にはさっきより目を大きく見開いているくすけんがいた。
「亮ちゃん…泣いてんの…?」
泣いてる、
「な、泣いてなんかっ…」
俺は慌てて腕で『涙』を拭う。
「な、ほんとに、今日どうしたんだよっ…亮ちゃん!」
「わり.....もう、行っていいから」
「えっ…」
「早く行けよ、大ちゃん..待ってるぜ?」
ぎゅっと拳を握って、俯いたまま俺は言った。
もうこれ以上、苦しみたくない。
お前に優しくされる度に、苦しくなるんだ。
胸が締め付けられるんだ。
これ以上苦しんだらどうなるのか、怖くて。
だからもう、優しくしないで、
そうしたら、俺も諦められるような気がする。
「....ほっとけるわけ、ないだろ!」
しばらくして、室内に響いた声を聞いて、俺は顔をあげた。
「亮ちゃん、一緒行こう?大ちゃん、待ってるから」
「だから待ってるのは、」
「『俺じゃねぇ』って?そんなことない、大ちゃんは俺たちを待ってる」
そう言って、優しく微笑むくすけん。
.....なんでお前はそんなに優しいんだよ?
優しくされたら、その笑顔を見せられたら、
諦められそうにないだろ....バカ。
「.....戻るか」
俺は天井を見ながら、小さな声で言った言葉は、くすけんに聞こえてたみたいで。
気付いたら俺の右手は、くすけんの左手に包まれていて。
そのまま強く引っ張られながら、
くすけんがドアノブに手をかけた瞬間。
----がちゃ
部屋に響く、ひとつの音。
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